親や配偶者などが亡くなって賃貸物件が遺産として残されたとき、例えば遺産分割が決まっていない間に発生する家賃収入は誰が受け取ることになるのでしょうか。
相続した賃貸物件の家賃収入について、ケース別に解説します。
家賃収入を得られる相続人が明記された遺言がある場合
家賃収入が発生するアパートなどの賃貸物件を相続する人が遺言書に明記されていれば、その相続人に家賃収入を得る権利があります。
この場合の遺言書は、法的な効力を持つ正式な遺言書でなくてはなりません。
遺言書には「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3種類があります。
被相続人がみずから自筆で書く「自筆証書遺言」は書式に不備が生じているケースも多く、詳細に検証する必要があります。
公証人に作成を依頼して公証役場に保管する「公正証書遺言」であればまず問題はありません。「秘密証書遺言」は誰にも内容を知られたくない場合に利用するもので、作成はやはり公証人が行います。
遺産分割ができていない状態の家賃収入について
被相続人が亡くなると、その亡くなった日が相続開始日となります。遺産の中に賃貸物件がある場合、相続開始日から遺産分割協議が成立するまでの間も家賃収入が発生します。
この間の家賃収入はどのように扱えば良いのでしょうか。
遺産分割協議で賃貸物件の相続人が決定すれば、決定以降の家賃はその相続人が取得することになります。
問題は遺産分割が成立する前ですが、これは法定相続分として相続人全員が受け取ることができるとされています。
判例では、「遺産は、相続人が複数いるときは、相続開始から遺産分割までの間、相続人全員の共有の状態にあるのだから、その間に発生した賃料債権は遺産とは別個の財産というべきであって、各相続人がその相続分に応じてそれぞれ単独で取得するものであり、後にされた遺産分割の影響を受けない」(最高裁判決平成17年9月8日)と判断されています。
つまり、相続開始日から遺産分割までの間に生じた家賃収入は遺産分割協議の対象とはならず、各相続人がその相続分に応じて取得します。
ただ、この場合、代表者が家賃を配分する必要が出てきます。あるいは管理会社に任せるのも良い方法です。
遺産分割が決まらない場合には
相続人同士で話し合う遺産分割協議が成立せず、遺産分割が決まらない場合は、家庭裁判所に申し立てをして「遺産分割調停」を行うことができます。
この調停手続きでも決まらない場合は「審判」という手続きへ進みます。この裁判所の審判手続きは、家庭裁判所の裁判官が最終的に遺産の分割を決めるものです。
賃貸物件の相続人になる際の注意点
賃貸物件の相続人になれば家賃収入が得られるようになりますが、その一方で賃貸物件を経営していく責任を負うことにもなります。
賃貸管理はもちろん、建物の修繕、部屋のリフォーム・リノベーションなども計画的に実施していかなくてはなりません。もとからあるローンの返済に加えて、修繕やリフォーム工事のための融資も受ける必要が出てくるかもしれません。
物件にもよりますが、家賃収入があるからと言って必ずしも収支が大幅に黒字になるとは限りません。
そのため遺産分割協議では、相続人同士で管理についても責任を持てるのかなどもしっかり話し合い、場合によっては賃貸物件の売却も視野に入れて考えることが求められます。
賃貸物件の相続は家賃収入のこともあって、相続人同士で揉めやすい相続案件と言えます。できるだけ事前に対策を考えておき、相続人も遺言によって決めておくのがベターな選択です。
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