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アパート入居者の火災保険は義務?

アパート経営をしていると、悩みの種になりがちなのが火災保険の問題です。経営者の立場からすれば入居者全員に保険に入ってもらいたいところですが、借主がそれを渋るといったケースも少なくありません。

そこで、アパート入居者の火災保険は義務なのかという問題を取り上げつつ、加入を拒否された場合の対処法などについて解説をしていきます。

火災保険がカバーする範囲は?

火災保険について考えるうえで最初に理解をしておきたいのが、火事で被害が出た場合に、借主側の火災保険でどこまでカバーができるかです。

そこで、火災保険の補償内容について説明すると、一般的な賃貸住宅向け火災保険の場合は『家財保険』『借家人賠償責任保険』『個人賠償責任保険』の3つがセットになっています。

家財保険

家財保険とは家具や家電など、建物以外の火事で失った入居者の持ち物を補償する保険です。

火事が起きた場合、それによってこうむった被害は火事を起こした人に請求するのが当然だと思われがちですが、日本の法律では加害者に重大な過失が無い限りは、被害者に対する補償義務は生じないとされています(民法709条 失火責任法)。

つまり家財保険に入居者が入っていない場合に火災が起きても、入居者自身が家具や家電など一式を買い直す負担を強いられることになります。

借家人賠償責任保険

借家人賠償責任保険とは入居者が火事を起こしてしまった場合に、大家に対して原状回復などの賠償をするために用意されている保険です。

火事を起こした際の賠償義務は前述した民法709条によって定められているとおりで、借主は大家に賠償をする義務はありません。しかし借主と大家の間では、失火責任とは別に賃貸契約期間満了に際して原状回復の義務(民法415条 債務不履行責任)を有しています。

火事を起こしたアパートやマンションの原状回復をするには相当なお金がかかってしまいます。

民法上借家人に責任があるとはいえ、支払能力がなければ大家としては何も解決されませんし、借家人もただでさえ焼け出されている上に、大きな負債を抱える可能性があるという双方のリスクを軽減するのが借家人賠償責任保険となります。

個人賠償責任保険

個人賠償責任保険は火事の原因が借家人の重大な過失によって引き起こされた場合に適用される保険です。

たとえば、てんぷらの火をつけっぱなしにして外出をしたなどといった重大な過失があった場合は失火責任法に基づき賠償義務が生じますが、この保険に加入していれば、損害賠償金についても保険会社から補償を受けられます。

以上のように、これらの保険に加入してもらうのは、単に大家としてメリットがあるというだけではなく、借主にとっても万が一の時に役に立つ大きなメリットを提供するものです。

火災保険への加入は貸主の義務?任意?

大家の立場からすると、火災保険は入居者全員に入っておいてほしいところです。しかし、火災保険の加入を大家側が強制することはできません。

火災保険に入るかどうかはあくまでも借主の任意であり、義務ではありません。ポイントは“どの”火災保険に加入するかは自由であるという点です。

火災保険の加入強制できないのは、独占禁止法に抵触するためです。独占禁止法とは自由で公平な商業活動を保障するための法律であり、不動産会社や大家が特定の保険会社への加入を強制すると、借主側にとっては選択の自由が奪われることになります。

決して火災保険の必要性が低いと見なされているわけではありませんが、現状ではあくまでも任意での加入を促すことしかできません。

大家として可能な対処法としては、前述した火災保険のメリットを大家や不動産会社の専門家から借主に対してきちんと説明を行うことの他に、不動産賃貸契約書に火災保険の加入を条件の一つとして明記する方法もあります。

もちろんその際にどの火災保険に入るかを指定することはできませんが、借主にとってきちんとメリットのある火災保険を選んでもらった上で条件とするのは可能です。

借主に最適な火災保険を探してもらう

火災保険は義務ではないため、いくらその必要性を説明しても加入を渋る入居者は出てきます。その理由はもちろん、保険に加入することでよけいな出費が増えてしまうからです。

ちなみに、保険料の相場は年1万円程度であり、月に換算すると800円程度なので決して高いというわけではありません。しかし、それでも、めったに起きない火事のために年に1万円も払うのはもったいないと感じる人はいるはずです。

そういったケースでは入居者自身で安い保険を探してくれば、節約ができる旨を伝えるのがよいでしょう。

家財保険金額ごとの年間保険料の例

たとえば、家財保険の補償額が最大500万円で年間保険料は8,000円だったとすると、補償額300万円なら保険料が6000円、100万円なら4000円といった具合に、補償額が小さくなるほど保険料も少額になっていきます。

そこで、このような具体例を挙げていけば、火災保険加入の説得もしやすくなるはずです。

通常の場合、入居者に対しては、物件を紹介した不動産会社が自社でよく使っている火災保険を勧めるのが一般的です。したがって、他の保険を勧めるのは、それで納得してくれない場合の次善の策だといえます。

個人賠償責任保険の特約を説明する

個人賠償責任保険はもともと独立した保険として販売されていました。しかし、現在では火災保険や自動車保険の特約としてセットになっているのが一般的です。

もちろん、特約なので付けるか付けないかは加入者の自由です。その一方で、この特約は火災以外でもさまざまな場面での補償をカバーしてくれるというメリットがあります。

たとえば、風呂の水を出しっぱなしにしていて下の部屋を水浸しにしてしまったなどといったケースです。そういうときでも、個人賠償責任保険に加入していれば保険会社が賠償金を補償してくれます。

その他にも、「訪問客に飼い犬がかみついた」「自分が乗っていた自転車が歩行者とぶつかってケガをさせてしまった」「ホームパーティーで出した食事で食中毒が起きてしまった」など、日常生活で起こりうるさまざまなトラブルに対応することができるのです。したがって、保険料は若干高くなるものの、個人賠償責任保険の特約をつけておいた方が安心して日々の暮らしを送ることができます。

そういったメリットは入居希望者にもしっかりと伝えた方がよいでしょう。

火災保険の重要性を借主に理解してもらおう!

たかが火災保険くらいと思っていても、借主にとっては金銭的負担であることは確かです。

しかし火災保険は大家として借主を災害など守る、備えとするためにも有用なものですから、きちんと理解してもらえるように上記の記事を参考に丁寧に説明してみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人:株式会社ラルズネット編集部